thelma

OPENING
【冒頭】凍結した湖面を歩く幼い少女とその父親。娘は氷下に見える魚に気がつき、水中のマス科の魚が寄ってくる。父親は肩に猟銃を掛けている。森の中でメス鹿が現れ、少女は驚きで見入っている。同時に父親が銃口を鹿へ向けるが、後ろからその銃口を娘に向けようとして思いとどまる。
ここで題名「 THELMA 」が、記憶がフラッシュ・バックするかのように明滅しながら現れ、そして突然消える。
supplements: particle or wave, non-epileptic seizures, biology and nature science, nozinan, antipsychotics……

【物語】つづく場面は、大学の構内を俯瞰した視点から少女を捉える。成長したおとなしげな少女テルマが授業に参加している場面。粒子と波長の話で物理学の講義であると思ったが、テルマの専攻は生物学であることがすぐに分かる。8時からの始業が6時に変更になったと、電話で車椅子に座る母親と会話している。朝6時からの授業。白夜と極夜のある国、明るい活動時間は貴重である。そこは開け放ったスーツケースがあるのみで、殺風景な部屋に一人での学生生活。

翌朝、図書館で勉強しているテルマ。その横に別の女学生が座りその気配を不意に察してしばらく間がある。テルマは何かを感じている。予兆のようなものを感じているのか?すると構内からカメラは離れ、上空を飛来するカラスの群れを捉え、そして次々に図書館のガラス戸にぶつかる。それと同時にテルマは突然に失神し卒倒してしまう。

病院内で問診が行われ、テルマは医師に過去に同様なことは一度も起きていないと告げる。薬物、アルコール摂取の有無、家族や親族に同様の症状を持つ人の有無などが聞かれる。不安げに癲癇(てんかん)ですかと尋ねるテルマに、まだそう判断するには早急すぎると医師。その担当医は以前に見てもらった医師と話がしたいというが、テルマは両親にはこの事を知って欲しくないと告げる。医師はそれはあなたが決めていいことですよ、心配しないでと気遣う。しかし精密検査を受けた方がいいとも付け加える。

その夜、蛇が森から這い出し、ある屋敷の中へ、そしてベッドで寝る誰かのしわのよった首筋を伝って足元にからみつく。瞬間、テルマは目覚め、それはテルマの夢か幻影だったのか、あるいはそのような殺気、気配をテルマ自身が予感したのか?少しづつ物語は静かに進行していく。

次に構内のプールで泳ぐテルマの場面。彼女が卒倒した時に横にいた同じ学生のアンヤが声をかけ、お互い自己紹介をする。その後すぐにテルマの携帯に、アンヤから、自分で調べたのか、フェイスブックの友達リクエストが送信される。テルマは、アパートでそれとなくアンヤのプロフィールと公開されている写真を閲覧する。そこでアンヤの彼氏や友達との「リア充」ぶりを目にしつつも、特に気も無いままPCを閉る。あまりソーシャル・メディアにも興味を持っていな様子が伺え、テルマは、アンヤが写真で公開する恋愛ごとも何処か感情のピントが合っていない感じだ。

その後に、荷物を届けに来た両親とレストランで食事をするテルマは、その場にいたお互い心づかい合っているホモセクシャルの男性カップルを、カソリックで厳格な両親の手前素知らぬふりもするだけテルマも大人の良識はあるが、しかしごく自然に彼らを微笑んで見遣る場面が挿入される。

久しぶりの両親との食事ではしゃぐテルマに、両親は知人がよろしくと言っていたと伝え、テルマは、以前に彼らと自分が興味を持つ話題について話したことを両親に語る。その時の話題に上った文明の始まりについて話しを始めようとするが、父親がそれを突然に遮り、テルマもう十分だよと。そういう会話にはなれていない、居心地が悪いんだとテルマに伝え、お前は生命の誕生が何も無い中からどのように始まったのか知っているのか?お前は何でも全て知っている言わんばかりだなと父親はテルマを咎める。そして母親は何も言わないでいるが、彼女は終始、信仰からくる厳格さが現れているというよりも、何処となく娘に対してよそよそしく氷のような冷たさの印象を受けとる。母親が車椅子で生活する、その原因や理由についてはまだここでは分からない。

テルマは、自分の話したい、共有したいことを、無邪気に多少の興奮を伴って両親へ話しただけであった。その夜、テルマのアパートに素泊まりしていく父親は、母親はどこか別のホテルで泊まっているのか姿は見えない、テルマの様子を見て悲しいのかいと尋ねる。テルマは先ほどのことを父親に謝るのだった。自分が時に他人よりも秀でていると本当はそれは違う自分なのに、自分でもどうにもできない自分がいて高慢になってしまう時があると父親に話す。フェイスブックのみんなも低脳で馬鹿げていると思う一方で、その中では自分だけが誰も知らない疎外された感覚を持つ時もあるとテルマは語る。父親はただ優しく、みんなはお前のことを知らなければならないね。でもそれには時間がかかるんだよとテルマを諭す。

POINTS
【視点】上記、同性愛者同士の睦まじさを目にしたテルマの温かいまなざしも、それが意味するものは、性別を超えて、子どもが純真に持っている他者への関心や愛情、大切で愛おしいものに対するポジティブな人間性の本質、テルマの探究心や好奇心を描写している。この場面を、その後の展開で、テルマの同性愛的な描写がイメージされた物語の伏線であると捉えてしまうと誤解が生じる。身体的には成熟しながらも、まだ少女であり、成人女性への過渡期にあるテルマの物語を、過去の謎が彼女の周辺で起こる現象と共鳴しながら、繊細に静かに描かれている。

翌朝、両親を見送るテルマ。図書館で遅くまで一人残って勉強しているテルマに、アンヤが今度はインスタグラムから再びメッセージを送ってくる。今バーにいると告げるアンヤにテルマは意を決して自分も他の人たちの中に参加しようと出かけて行く。

テルマは偶然を装いアンヤに会いに来てグループの中に入る。厳格なキリスト教徒の家庭で育ったことを、テルマがただのコーラしか飲まないことがみんなからの好奇心を買い、そう説明する。途中で母親から着信があり、周りのものが怪訝な顔をする。その真面目さが全くこの場に浮いてしまっている。神の存在とサンタクロースの存在を掛け合いに出され、13人の使徒をサンタクロースの子どもだと男子学生がからかう。彼は科学的に説明できないものは信じないとうそぶくが、神の存在の説明はできなくても、携帯の着信音が何故鳴るのかぐらいは科学的に説明できるんでしょ?とテルマもやり返す。電磁波がどうだとか、うろ覚え、受け売りの弁舌のボロが出て降参する彼だが、それで場も和んでいく。存在が浮いているのは突出した個性であるからだ。彼女の存在はそれに有無を言わせない、周りに認められて行くのは時間の問題だったが、アンヤは少なくともそれを感覚的、運命的に気づき理解していたのだろう。二人はそこを後にしてフロアーのリズムに身を任せて踊る。その後の帰り際、父親からの電話に出るが、父親は、楽しむことも今しか出来ない経験をしていくことは大切だとテルマに理解を示す一方で、電話に出ないと母親が心配するとテルマに理解を求めるのだった。やがて無意識に感じている抑圧からだんだんと解き放たれようとする衝動がテルマに芽生え始めていく。

リズムをまだ身体に感じながら、一人で眠るベッドでアンヤを思い出し、その感覚で相手に触れようと手を差し出した時、テルマの感覚がアンヤの感覚にチャネリングしてしまう。アンヤもそれを感じ取り、戸外にアンヤが突然現れる。テルマの乱れた波長に感応するように風が吹きざわめき、テルマはアンヤを前にして再び卒倒し痙攣を続ける。介抱するアンヤ。付き添ってくれる彼女にテルマは初めての特別な感情を抱き始める。少年少女が初めてできたと感じる親友というものかもしれない。そうとは感じなくても実質的には両親以外の親しい相手がいなかったテルマは孤独であった、その少女が初めて出会った親友。そしてまさに成人への過渡期に出会ってしまったことで親友への感情とは違ったものへとテルマ自身が知らず知らずのうちに発展していく。

テルマはアンヤに、自分と父親との間の信頼関係とその絆は深く、何でも打ち明けられると告白する。アンヤはそれとは対照的に父親からの愛情を得られなかった幼少期を語る。身体につけられた傷。終わってしまった人の数だけの刺青。彼女は人からも自分の人生からも傷つき真実の愛を求めていた。オペラハウスで歌劇に見入る二人の場面。二人は求めあい、肉体的にテルマはアンヤを拒絶する。そして罪の意識からアンヤを遠ざけるようになる。

数日後、テルマはボーイフレンドを伴ってパーティへ姿を現す。そこでアンヤに再び会う。テルマは、アルコールを飲み、仲間同士で、幻覚作用のある葉っぱだと偽りを言われただのタバコを初めて吸い込む。しかし、彼女はそこで「蛇婬」の幻覚に囚われる。蛇がテルマの身体にからみつき、その蛇がテルマの首を締めつけて咽喉部奥へと入っていく。そして、現実なのか幻覚なのか、アンヤとの身体的なイメージがフラッシュして身悶えし苦しむテルマ。

テルマが精密検査を受ける場面が挿入され、テルマの病状と、テルマの叔母や家族のこと、その過去のことが徐々に語られる。一方でテルマを襲う幻覚が彼女から離れず、強くなり、苦しめ、過去に封印された何かが呼び覚まされていく。その記憶に繋がることがテルマの中に眠る何かを解き放ち、覚醒した能力でテルマはその苦しみから逃れようとアンヤを突然に消し去ってしまう。
ここから、テルマとその家族に、過去に、一体何が起こったのかが暴かれていくが、それらが冒頭の美しくも恐ろしい場面につながっていく・・・

QUOTES
The word “ seizure ” means being possessed by external power – either gods or demons, depending on what century they were living in.( ”発作” という言葉は外部からの力によって支配されるということを意味する。それが、神々あるいは悪魔によるものなのか、それは人々が何世紀に生きていたかによる)

MEMO
【映画『セルマ THELMA』の挿入曲】 Mountaineers 』:Susanne Surfør – feat. John Grant /『 Feral Love』: Chelsea Wolfe /『 Symphony no.2 』: フィリップ・グラス Philip Glass /『 Familiar 』:アグネス・オベル Agnes Obel /『 Flickering Lights 』: アマンダ・ベルグマン Amanda Bergman /『 Kunshan 』: Linus Sandberg & Dimi Tsoukas /『 Think of China 』: Xovox /『 Positive Disintegration 』: WhaleSharkAttacks /『 Lost Matrix 』: Butch Queen /『 Drift 』: リンドストローム Lindstrøm /『 Cathedrals 』: Butch Queen – feat. Billie Van /『 Perrongen 』: Virkelig /『 Why Bother 』: Luke Faas /『 Graven er tom 』: デイビット・アンドレ・オストビー David André Østby /『 Witness – Pow Pow Remix 』: Mikhael Paskalev /『 BEG 』: ブロンデージ Blondage /『 Keep Moving 』: 歩歩 Pow Pow /『 Oktober 』: Kappekoff /『 Relative Peace – Oban Rework 』: キンブラ Kimbra – feat. ヤング・ドリーム Young Dreams & ジャガ・ジャジスト Jaga Jazzist /『 Worship 』: エイトリウム・カールセリ Atrium Carceri /『 Black Arts 』: Dronny Darko /『 Be Yourself for Me 』: Dark Matter /『 The Pirate Bay 』: Ola Fløttum /『 The Sound of War 』: Susanne Sundfør

MEMO
【記録】監督・脚本:ヨアキム・トリアー Joachim Trier , 作品:『リプライズ Reprise 』(2006年),『オスロ、8月31日 Oslo 31, August 』(2011年),『母の残像 Louder than Bombs 』(2015年)/ 脚本:エスキル・ヴォクト Eskil Vogt / 撮影:ヤコブ・イーエ Jakob Ihre / 音楽:ウーラ・フラットゥン Ola Fløttum / 出演:アイリ・ハーボー Eili Harboe / カヤ・ウィルキンズ Kaya Wilkins / ヘンリク・ラファエルソン Henrik Rafaelsen / エレン・ドリト・ピーターセン Ellen Dorrit Petersen / グレーテ・エイテルヴォーグ Grethe Eltervåg / 制作国:ノルウェー、デンマーク、フランス、スウェーデン/言語:ノルウェー語/ 【付記】映画『セルマ(原題)』(日本公開日未定)。日本で「セルマ」の表記で紹介されているが、物語中では「テルマ」の名前で呼ばれているのでこの記事の表記はそれに従った。また、テルマの友人の「Anja」は「アンニャ」と発音されるが「アンヤ」とした。/ 2017年制作 / 初上映:2017年8月20日「ノルウェー国際映画祭」、2017年9月9日「トロント国際映画祭」

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