shape of water

【はじめに】これは怪物が登場するメルヘンだ。もっとも、「メルヘン(童話)」は必ずその物語の基調として恐ろしい面が描かれている。この作品もおぞましいストーリーという意味でまさに「メルヘン」と言える。童話は一話で完結する短い説話が多いが、この作品、素晴らしいイラストがついたちょっと良質な装丁の童話本を、一気に読み終わったような、またその書物を読み終わった後に大切にしたくなるような、そんな感情を引き出された、完成された作品だった。

物語は・・・ 当ブログの寄稿者よりも、この作品には冒頭で、語り手がいるので、その語り手の言葉で語ってもらおう。

STORY
【物語】If I spoke about it. If I did. What would I tell you? I wonder? Would I tell you about the time? It happened a long time ago… it seems. In the last days of a fair Princess’s reign… Or would I tell you about the place? A small city near the coast but far from everything else… Or, I don’t know. Would I tell you about her? The princess without voice. Or perhaps I would just warn you about the truth of these facts and the tale of love and loss, and the monster that tried to destroy it all…

(もし私がそれについて話したとしたら。そうしたとしたらね。あなたに何を語ったであろうか?考えてしまう。時代について語ったであろうか?ずっと昔に起こった事・・・そんな気もする。麗しのお姫様が存命だった最後の日・・・あるいは、場所について語っただろうか?小さな海岸のそばの町だが、そのほかは全てが遠くにある・・・あるいは、どうだろう。彼女の事をあなたに語っただろうか?声を持たないお姫様のことを。あるいは、多分、私はただあなたに、これら事実の、愛と喪失の物語の、その真実について警告だけしたであろうか?そして、すべてそれを破壊しようとした怪物のことを。)


・・・語り手自身、語るべきことがはっきりしていないようだ。これは聞かせる相手を選ぶ、またはあなたがどんな反応を示すのか、あなた自身が何を期待しているのか掴みかねているために起こる躊躇というものだ。あるいは、語り手自身がよく理解していなかったのか。とにかく、これは「声を持たないお姫様」の物語、そして「怪物」が登場する物語だとこの語り手は話した。

時代は、現代。旧ソ連と米国の関係がまだ冷戦下にあった頃の物語。主人公は発話ができない女性で、聞き取ることはできるが、他人とのコミュニケーションは手話で行っている。冒頭の語り部の言葉に沿って、青緑がかった水中を視点が移動して行き、難破船のデッキから船室へ向かう。船内には水中に沈み浮遊する家具や生活の品物が残り、それがそのまま、先の女性の部屋に置きかわって、彼女の日常が冒頭で描かれる。

規則正しい日常、タマゴを、タイマーをセットしゆでながら出勤の準備。浴室でマスターベーションをして、服を揃え靴を磨く。階下から音楽、人が話す大きな声が聞こえ、そこが映画館の上階の古いアパートであることが分かる。彼女は日めくりカレンダーの占いみたいな、その日の言葉、「今日の一考」をめくって、隣人で初老のジャイルズ宅へ寄り、徹夜の明けた絵描きの彼に朝食を渡す。テレビではタップのボージャングル氏が映りダンスを披露する。彼女もタップで足取り軽く出掛けて行く。外は夜もまだ明けきらず、映画館の従業員が深夜営業後の看板の掛け替えをしている。彼女の名前が彼らから呼ばれる。彼女の名前はイライザ(Elisa)。バス停からバスへ乗車、出勤途上で帽子を枕にしてしばしの二度寝。それが毎日繰り返される様子であることが伺える。

彼女はどこかの何をしているのかもよく分からない研究所で清掃員として働いている。これは、仕事場とアパート、その間を往復する彼女の日常生活の物語だ。日めくりカレンダーの言葉は、その日、その日の彼女の人生、未来に対する暗示であるが、これをイライザは希望にして、毎日を幸せなものにしようと懸命になっている。その姿が自然に見るものを物語中に引き込んでいく。そして、映画が始まってすぐにも、極秘の研究施設に、アマゾン河の奥地で捕獲されたという何かが運び込まれる。それ以降、イライザの人生も、この物語も全く違った流れへと急転回していく。

「怪物」が登場することについて、監督自身がコメントした言葉を引いて、この項を早々に終えたい。ただ後はあなたがこの作品を見るしかないだけだが、映画の中で使用される音楽をこの記事では収録しておいた。どの曲もこの時代やイライザの事をよく表している。また音楽はイライザの発話に変わる非常に大切な言葉だ。上記の監督のコメントは、ゴールデン・グローブ賞で、最優秀監督賞を受賞した時のもので、全文を掲載したので是非参考に。

監督は、モンスター(怪物)の登場についてこんな風に話している。

(モンスターは)私たちの、この祝福に満ちた幸せな不完全さの守護聖人であり、彼らは失敗することや生きることの可能性を許容し具現化してくれている。

人間は完全ではないし、失敗だってします。だからっていいじゃないか。人間は、生きてるんだから、それだから幸せなんだ。こんな話をする監督自身、これは幼少期からの考えで、人間自身をまるで具現化したような、様々な物語に登場する怪物(モンスター)が、今まで何度も自分を励まし、生きていく上で救いになってきたといっている。そんな監督の考えに基づくこの作品は一つの現代に対する寓話(アレゴリー)でもあるといえる。

人間と水中に棲む怪物との「純恋愛映画」といわれるこの作品で、イライザがこの怪物に惹かれていった理由が、彼女自身の手話による言葉で語られている。最初は好奇心から姿の見えないものに興味を示した。すぐにその相手と厚い水槽のガラス越しに面会(?)。未知の生物への驚きと、凶暴な野生を前にした恐怖を一瞬感じながらも、恐る恐る自分には敵意はないことを相手に示すイライザ。そして一日のうちの彼女のひと時(「人生という計画の難破船」)。ここから奇妙なコミュニケーションが始まる。

彼は孤独だとイライザは言う。このくだりは、隣人の、数少ない唯一の友人ジャイルズに助けと協力を求め手話で激しく訴えかける場面で、イライザのセリフの中に見られるものだ。この怪物が、自分の孤独に生きてきた人生とダブったのかもしれない。しかし、このモンスターが自分をみる眼差しにイライザはだんだんと惹かれていったことが彼女の言葉からは理解できる。
発声ができないイライザは、音を発しようともがき、人生の多くの局面で口を動かし発話しようと努力してきた。そして他者からは無視されるか蔑まれる境遇だった。そんな自分と、同じように口を動かし、でも言葉にならず言葉が喋れない姿は彼女自身だとイライザは気づいている。彼が自分を見る眼差しに、彼女は自分が「ミュート」という欠格、つまり不完全である自分への自覚が、彼の中では何もないということに気づく。彼の中では、そんな点、不完全であるという点も、そんな意識も、見方も全く微塵も存在しない。彼の目の中には不完全な自分自身がそこにあるだけだと気づく。

彼の眼差しの中に、毎回、毎日会うときに幸せを感じているのを気づき理解するイライザが、彼は研究施設では酷い扱いを受け、それを知り目撃してきている、それにも関わらず彼を助けることもできない。そして彼をそのまま死なせるの?法を犯すことに躊躇しているジャイルズにイライザが訴える場面で、彼女の気持ちが語られる。人間と人面の水棲生物との交歓が、やがて違った特別の感情に育っていく。

【付記】この作品公開には、R指定と制約のない2通りがある。冒頭のイライザのオナニー場面や、研究施設内の暴力描写等がR指定を受けたとある。その他、男性性器と行為の描写、流血する暴力描写への言及もあるが、主に前者の「オナニー」に関しては、イライザの孤独で、でも愛することを知っている、その繰り返される日常を、ユーモラスに描く中で、2回ほど間接的に映る場面である。虐待・拷問の場面は、観客も怒りがこみ上げてくるような理不尽な扱いを「怪物」は受けていて、そのやはり間接的な描写は確かにある。厳しい米国の倫理基準に対して日本では通常そうであるように規制はかからないと個人的には考えるが、どうであろうか?

童話は何かしらの原話、原型があって、そのストーリーの構成は至ってシンプル。この作品もストーリーは単純な構成だ。しかし、このシンプルさが、鑑賞後に余韻を持たせた。多分、私自身はまた何度かこの作品を見ることだろう。その意味でもこの作品は「メルヘン」だった。

DAILY THOUGHT 1
time is but river flowing from our past(時とは、私たちの過去から流れつづく河以外の何ものでもない)

DAILY THOUGHT 2
life is but the shipwreck of our plans(人生とは、私たちの計画の難破船の何ものでもない)

アンフィビアンくん
「タマゴ」美味しいな、これ。タマゴ欲しい。タマゴ気に入った。タマゴ大好き。「音楽」楽しいな、これ。音楽もっと。音楽大好き。音楽お前ともっと聞きたい(僕は基本的に人間の言葉を話さないけど、今は手話もできるぞ)。

what am I ? I make my mouth like him. I make no sound like him. what does that make me ?
all that i am all that i’ve ever been brought me here to him.


MUSIC SCORE
【挿入歌】 『ラ・ジャヴァネーズ La Javanaise』マデリン・ペイルー Madeleine Peyroux /『I Know Why – And So Do You(映画『銀嶺セレナーデ』)』グレン・ミラー楽団 Glenn Miller & His Orchestra /『チカ・チカ・ブン・チク Chica Chica Boom Chic』カルメン・ミランダ Carmen Miranda /『Babalu』 カテリーナ・ヴァレンテ & シルヴィオ・フランチェスコ Caterina Valente & Silvio Francesco /『夏の日の恋 A Summer Place』アンディ・ウィリアムス Andy Williams /『My Unusual Man』トリクシー・スミス Trixie Smith /『Breathe(未挿入曲)』フルーリー Fleurie /『黒い瞳 Ochi Chernye』(ロシア・ジプシー歌謡)/『Space Race』,『Fashion Parade』ロジャー・スーアン Roger Suen /『The Story of Ruth』Franz Waxman/ 『I Went to Market』Bill “Bojangles” Robinson /『Pretty Baby』Betty Grable/ 『Hello Frisco』アリス・フェイ Alice Faye /『 Dreamin’』Jerry & Raun Burnham / 『Monty’s Mustache Wax』Mark Gordon, Paul Steel & Rory Andrew /『Flitting About』Wilfred Burns /『How Wrong Can I Be』マリリン・モンロー Marilyn Monroe /『 I’ll Remember Tonight』Pat Boone /『The Wide Missouri – Shenandoah』The Corps of Cadets of the Virginia Military Institute and Tommy Sands /『September Fidelis』John Philip Sousa /『Comedy Bridge #68』Kraushaar-Skiles/『You Rang』Lionel Newman /『The Spirit of V.M.I.』Benjamin Bowering /『You’ll Never Know』アレクサンドル・デスプラ Alexandre Desplat – feat. ルネ・フレミング Renée Fleming /『You’ll never know』ハリー・ワーレン Harry Warren – feat. アリス・フェイ Alice Faye

【付記】「未挿入曲」の「Breathe」は、唯一現代曲。このタイトルは早い時期のプレス等では記載されていた。また、サントラを紹介するサイトや各情報でも今だにこの曲が記載されているものがある。しかし発売されているサントラには収録はされていない。また、映画のテロップにもそのタイトルの記載はない。いい曲なのでずっと聞いていたいが、挿入歌は全て、この物語が設定する時代に実際に人々により聞かれていたもので、そこへこの曲が挿入されると確かに違和感は生じると思う。それはエンド曲で使ったとしても同じだ。あえて最後の曲は「You’ll never know」の新たなカバー曲になっているし、その点が変更になったのかもしれない。また、映画のどこかの場面でそのメロディーが使われているのかなどは気づかなかった、あるいは公開されるバージョンにより国によっては収録されているのか等は分からない。この物語には合わないが、とてもいい曲なのでこのブログでは紹介しておく。

PLAY LISTS
      la javanaise - madeleine peyroux
      i know why - and so do you - glenn miller orchestra
      chica chica boom chic - carmen miranda
      ochi chernye - sophie milman
      a summer place - andy williams
      my unusual man - feat. trixie smith
      breathe - fleurie
      breathe - live studio ver. - fleurie
      you'll never know - alice faye
      you'll never know - alexandre desplat - feat. renée fleming

“i hear the sound, echoes beneath/ angels and skylines meet/ and I’m straining to reach/ the light on the surface, light on the other side”
from “breathe”, by fleurie
2016.

when he looks at me, the way he looks at me. He does not know what i lack. or how i am incomplete. he sees me for what i am as i am. he’s happy to see me every time, every day.and now i can either save him… or let him die.

MEMO
【記録】監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ Guillermo del Toro 作品:『パシフィック・リム:アップライジング Pacific Rim: Uprising』(2018年), TVシリーズ『Trolhunters』(2016年〜), 『クリムゾン・ピーク Crimson Peak』, TVシリーズ『The Strain』(2014年-2017年), TVゲーム『P.T』(2014年), TVゲーム『パシフィック・リム Pacific Rim: Jaeger Pilot Oculus Rift Experience』(2014年),『パシフィック・リム Pacific Rim』(2013年),『ヘル・ボーイズ2 Hellboy II』(2008年),『パンズ・ラビリンス Pan’s Labyrinth』(2006年),『El laberinto del fauno: Detrás de las camaras(ドキュメンタリー「パンズ・ラビリンス」の裏側)』(2006年)『ヘル・ボーイ Hellboy』(2004年),『ブレイド2 Blade II』(2002年),『デビルズ・バックボーン The Devil’s Backbone』(2001年),『ミミック Mimic』(1997年),『クロノス Cronos』(1993年), TVシリーズ『Hora Marcada(指定時間)』(1988年-1990年), 短編『Geometria(幾何学)』(1987),『Doña Herlinda y su hijo(ドナ・エルリンダとその息子)』/ 脚本:ヴァネッサ・テイラー Vanessa Taylor / 音楽:アレクサンドル・デスプラ Alexandre Desplat / 撮影:ダン・ローストセンDan Laustsen / 出演者:サリー・ホーキンス Sally Hawkins / マイケル・シャノン Michael Shannon / リチャード・ジェンキンス Richard Jenkins / ダグ・ジョーンズ Doug Jones / マイケル・スタールバーグ Michael Stuhlbarg / オクタヴィア・スペンサー Octavia Spencer / 制作国:アメリカ合衆国 / 使用言語:英語 / 日本公開日:2018年3月1日公開(R15指定) / 制作年:2017年

関連記事:速報「ゴールデングローブ賞 2018 最優秀監督賞 デル・トロ氏」 / 速報「第90回アカデミー賞 最優秀監督賞&最優秀作品賞受賞」

3 thoughts on “shape of water

  1. 「ギレルモ・デル・トロ監督の受賞スピーチ全文」

    最優秀監督賞:
    Thank you. I am an immigrant like Alfonso and Alejandro, my compadres. Like Gael, like Salma and like many, many of you. And in the last 25 years, I’ve been living in a country all of our own. Part of it is here, part of it is in Europe, part of it is everywhere. Because I think that the greatest thing our art does and our industry does is to erase the lines in the sand. We should continue doing that when the world tells us to make them deeper.

    The place I like to live the most is at Fox Searchlight because in 2014, they came to listen to a mad pitch with some drawings and the story and a maquette. And they believed that a fairy tale about an amphibian god and mute woman done in the style of Douglas Sirk, and a musical and a thriller was a sure bet.

    I want to thank the people that have come with me all the way: Kimmy, Robert, Gary, Wayne and George. And my kids. And I wanna say, like Jimmy Cagney said once, “My mother thanks you, my father thanks you, my brothers and sisters thank you. And I thank you, very much.”

    最優秀作品賞:
    Thank you, thank you very much. Growing up in Mexico as a kid, I was a big admirer of foreign film. Foreign film, like “E.T.”, William Wyler, or Douglas Sirk, or Frank Capra. And a few weeks ago Steven Spielberg said, if you find yourself there, find yourself in the podium, remember that you are part of a legacy, that you’re a part of a world of filmmakers, and be proud of it. I’m very, very proud. I want to dedicate this to every young filmmaker, the youth that is showing us how things are done. Really they are. In every country in the world. And I was a kid enamored with movies, and growing up in Mexico I thought this could never happen. It happens. And I want to tell you, everyone that is dreaming of a parable(?) of using genre or fantasy to tell stories about the things that are real in the world today, you can do it. This is a door, kick it open and come in. Thank you very much.

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