au revoir là-haut


【冒頭】物語は「1920年11月、モロッコ」から始まる。フランス国の憲兵駐在署(「Gendarmerie」でフランスの警察)で、自国へ裁判のために送還される男から聴取を行っている。指名手配中だった男の名前はアルバート・マイヨール。1872年5月16日生まれ。調書にある通り、経歴年月日などを詳細に記憶している。彼は簿記員だったと供述。兵役で第一次世界大戦へ参戦。前線の「HILL 113」地点にいたという。近距離で敵と対峙する塹壕戦のことを彼は語る。

第一次世界大戦でドイツが降伏したのは、1918年11月11日。休戦協定が結ばれたのが午前5時。それが発効したのが午前11時で、発効するまでの6時間のあいだに起こった「西部線戦」の戦況が小説や映画にもなっている。この男、アルベールはドイツ降伏の同じ年11月9日に起こったある事件のことを語る。そして、自分の命を救ってくれた戦友のことを。

すでに休戦の噂が戦地に蔓延していて、戦争が終結する気配の中で誰も戦い勇んで死にたくはない。それはドイツ兵も同じだ。つかの間の平安とやっと解放されるかもしれないという予感の中で、小隊の中尉であるアンリ・ドルネー=プラデルだけが戦争を終わらせたくないと思っている。殺気立って塹壕の通路を行ったり来たりする中尉に対して、スケッチが好きなエドゥアール・ペリクゥールは彼の似顔絵を描いてからかい、そこにいた臆病そうでおとなしいアルバートに見せて得意になっている。

プラデル中尉は2人の兵卒に歩哨を命令する。役立たずの異名をとる男とその相棒的な若い青年。銃声とともに2人が撃たれて、倒れ伏していることをアルバートは知る。それに続きドイツ軍が砲撃を始め、再び戦闘が始まる。突撃が開始された。

先の歩哨に出た2人の兵士は背後から撃たれていた。それは誰か味方によって撃ち殺されたことを意味する。それに気づいたアルバートにプラデル中尉が銃口を向けている。そこへ砲弾が炸裂、中尉もろともに吹き飛ばされる。アルバートは陥没した土中に生き埋めになるが、吹き飛んだ軍馬が覆いかぶさり、その馬の腔内から酸素を吸い呼吸を確保。窒息は免れた。咄嗟にエドゥアールが駆けつけアルバートは助けられるが、砲弾が激しく着弾している中で、エドゥアールも重傷を負ってしまう。そこへ再びプラデル中尉が現れ2人を射殺しようとするが、現れた担架に助けられその場から退出する。

冒頭から展開の様が激しいが、大戦が終結しこの3人が祖国へ戻ってからの、因縁の顛末が語られていく。

【物語】エドゥアールは、アゴ下を失い、その姿に絶望し死ぬ思いになるが、アルバートが必死の看病を続ける。親元へも帰りたくない彼は自分を殺してくれとアルバートに頼むのだが、戦争も終わりこれから新しい人生が始まるとアルバートは彼を勇気付ける。しかし、アルバートは彼の希望を聞き入れて、すでに戦死したと戦死者名簿を改ざんする。エドゥアールは、死亡した兵士になり変わって街へと戻り姿を消す。アルバートは、彼の家族に手紙を送り彼の死を伝えるのだったが、エドゥアールには姉がいて、弟の最後を看取ったというアルバートを訪ねてくるのだが、そこへ再び元中尉が現れる。プラデルはこのエドゥアールの姉マドゥレーヌに取り入り結婚、大富豪のペリクー一族の富に預かり事業と地位を手中にする。

【付記】戦死者の遺族は、その遺体を国へ戻し墓地へ埋葬することが国によって禁止されていた。戦後のどさくさに紛れて、戦死者の遺体発見、埋葬場所の移動、遺体の運搬と墓地への埋葬という起業が実際にあり、詐欺まがいの業者も横行していたという。原作はそんな社会状況を題材にしている。戦後の疲弊から立ち直るために、国威発揚という理由もあったが、遺族たちからの政府への働きかけにより、戦没者の追悼碑を建設する機運が起る一方で、退役兵や帰還した負傷兵に対しては、戦後補償のようなものも、治療ケアーも十分ではなく、痛み止めのモルヒネがわずかに支給されている場面が映画では描かれている。アルベールは真っ当な仕事もなく生活に困窮しており、友人のための投薬を同じ退役兵士から奪うために盗みを働くしかなかった。主人公の2人は戦争によって一度は死んだ身だ。アルベールは砲撃によって吹き飛ばされ生き埋めになった。エドゥアールは死者の身分を借り受けたまさに幽霊そのものだ。しかしそんな彼らが死の淵から蘇るように、エドゥアールは自らの仮面を作り、アルベールにも死した軍馬の仮面を与え、彼らは自国や世間を相手に一世一代の詐欺行為を仕掛ける。

この物語、描かれるべき見所が本来は多くあると思った。映画では少し駆け足気味で内容が十分とは言えず、ストーリーも展開が速い。アルバートはおとなしい性格で、フィアンセとの破局、新しい想い人のポーリーヌに対しても何か不甲斐ない感じだ。エドゥアール父子の断絶した関係から、後半はどうなるの?っていう展開も唐突である。成敗されるべき「悪」に対するエドゥアールの転機・変身や、戦後に生きるアルバートの生活における立居や振る舞いは本来は見所なのだろうが、原作ではどのようにそれらが描かれているのか確認したくなった。グラフィック化されたものがいい感じだったのでそちらも合わせて確認している。
原題の意味は、英題の『See You Up There』にあるように、お空を指差して「また会おうな」っていう感じである。

原作は著者が最後に謝辞を記し、そこでこの作品のタイトルについて説明している。作品の題名は、国を裏切った兵士として銃殺刑に処されたジャン・ブランシャールという人物がその妻に託した手記の言葉からとられたとある。その処刑された兵士の言葉は、作品の冒頭で題辞として以下のように記される。

Je te donne rendez-vous au ciel où j’espère que Dieu nous réunira. Au revoir là-haut, ma chère èpouse…
– Demiers mots écrits par Jean Blanchard, le 4 décembre 1914 –

(「あの空で待ち合わせをしよう。神様が私たちをつなぎとめてくれるから。いとおしい人よ、天国でまた会おう・・・」
ジャン・ブランシャールが記した最後の言葉 1914年12月4日)


DATA
【記録】原作者:ピエール・ルメートル Pierre Lemaitre 作品:三部作「カミーユ・ヴェルーヴェン警部」シリーズ(『悲しみのイレーヌ Travail soigné』、『その女アレックス Alex』、『傷だらけのカミーユ Sacrifices』)、『死のドレスを花婿に Robe de marié』、『Cadres noirs』『天国でまた会おう au revoir là-haut』、『Trois jours et une vie

DATA
【記録】監督・脚本・出演:アルベール・デュポンテル Albert Dupontel 監督作品:短編『Désiré』(1992年)、『ベルニー Bernie』(1996年)、『The Creator』(1999年)、『Locked Out』(2006年)、『The Villain』(2009年)、『9 Month Stretch』(2013年)/ 撮影:ヴァンサン・マチアス Vincent Mathias / 音楽:クリストフ・ジュリアン Christophe Julien / 出演:ナウエル・ペレ・ビスカヤー Nahuel Pérez Biscayart / ロラン・ラフィット Laurent Lafitte / ニエル・アレストリュプ Niels Arestrup / エミリー・ドゥケンヌ Émilie Dequenne / メラニー・ティエリー Mélanie Thierry / エルゥイーズ・ジュネ Eloïse Genet / ドニ・ポダリデス Denis Podalydès