trespass against us

3世代にわたる家族の物語。ハートウォーミング系の牧歌的ドラマ。日本公開の決定までに、特にめづらしくはないがこの作品も時間がかかった。

冒頭、走る野ウサギをカメラが追う。ウサギを追っているのは、日本車のスバル。車種がアウトバック・レガシー!

草原を蛇行しながら走り回る、そのドライバーは6歳ぐらいの男の子だ。父親らしき男が子どもを膝に抱えて子どもに運転させている。車中にはすし詰め状態の8人の大の大人が奇声を上げはしゃいでいる。

楽しそうだがしかし彼らはどこかおかしい、クレージーだ。しかもどいつもこいつも皆アイリッシュ訛りの英語を話す。かなりスラングの連発である。

QUOTES
What a load of the bollocks!

車は盗難車、そのほかにも車を多数所有し、水性ペンキで色づけ、塗り替えをして仕込みOK。彼ら、公有地を不法占拠して一団で生活するカットラーズ家。英国・グロスターシャー州の郊外を舞台に間抜けにしか映らない警察を相手に窃盗で生活を維持している。英国パトカーも日本車の三菱ランサー・エヴォルーション!

映画『スナッチ snatch 』を知っている人は、あそこで登場したブラピ演じる”スパイキー”と呼ばれる集団(家族)が出て来たことを思い出して欲しい。酷いアイリッシュ訛りの英語を話すブラピ達、あんな感じの集団がここ英国にもいるのだろうかと思いながら・・・ コメディーでも、犯罪、アクション映画でもない、シリアスなドラマではあった。

シリアスな物語だったのは、この軽犯罪集団の一家で、ドライバー役の長男チャドが、妻と共にいて、特に二人の子供のために何とか、自分が読み書きもできず学校へも通えなかった教育を子どへは受けさせてあげたいと願っている点だ。チャドの父親コルビーは家族を自分の歪んだ信念に基づいて愛し守り続けているだけであり、その気概、お互いの愛情は歪んだ形であってもチャドへも受け継がれている。そして、チャドから息子のタイソンへも。

チャドの父親が自分の孫のことを深く愛していることは見ていても十分にわかる。よく孫と祖父の関係で二人が話しをしている場面がある。タイソンは祖父コルビーに尋ねる。

人間ってお魚から生まれたの?
誰からそんなことを聞いたんだ?
学校の先生からだよ。

コルビーの目が、怒りの表情、その震えとともに鋭く変わるのが見て取れるが、静かに優しく答える。

俺がおサルの尻から生まれただなんて誰も教えてくれなかったさ、お前のひいじいちゃん達が金魚だったなんてこともな。お●●こ先コウの言うことなんて聞いてたらダメだ。
学校、あそこは僕は嫌いだ。
俺は学校は常識 common sense を教えるところだと思っていたんだ。タイソン、奴らはお前の心を支配しようといているんだ。だから俺はお前の父さんを学校へいかせなかったんだ。

QUOTES
You’re gotta stand up against those cunts, Tyson. So they don’t trespass against us.

ここで題名の言葉が出てくる。
コルビーの考えを知る手がかりとして、神に取り変わった英国の女王に対する言及なども短いながらも挿入される。犯罪を家業にし、親子同士がお互い対立もしながら、結局その中から抜け出せないでいるのは、その家族の強い絆があるからだが、一方で、差別を受けながら、社会制度の枠外へスピンされ、そのスパイラルから3世代につながり抜け出せなくなっている現実がチャドに大きく立ちはだかる・・・

ボロックス達
あいつら●●●こヤロー達に立ち向かえ、タイソン。そうすれば奴らは我々に対して不当な行為をすることはないんだ

ここにも英国とアイルランドの歪んだ歴史とその関係の歪みが、こんな形に姿を変えて見えないところで人を蝕み社会の底辺から徐々に顕在化し出しているのだろうか?
そんないい加減な心配などは蹴飛ばされたかのように、エンディングは何故か父と幼い息子の間に希望があって、こちらが強く力付けられた。

SUPPLEMENTS
【付記】原題の「Trespass against Us」は、「私たちに対し( 〜 against us)、(不法な行い・占拠や、人権侵害等の)行為すること」を意味するが、この家族こそ不法な行いをしているわけで、何に対する題名なのか考えさせられる。「Have That!!」と彼らは警察に対して中指を立ててこのフレーズをよく口にする。この題名もそんな彼らの一種の気概、ジョークのようなものだと思うのだが・・・ 「牧歌的ドラマ」は取り敢えずここで訂正しておく。
MEMO
【記録】監督:アダム・スミス Adam Smith, ドキュメンタリー映画『 Chemical Brothers: Don’t Think 』- Fuji Rock Festival Niigata in 2011(2011年), CM短編『 Desire 』 Jaguar Ad.(2013年), 短編『 North of Ping Pong: What goes up must come down 』(2017年)/ 脚本:アラステア・シドンズ Alastair Siddons / 撮影:エドゥアルド・グラウ Eduard Grau / 音楽:ケミカル・ブラザース The Chemical Brothers, Tom Rowlands & Ed Simons / 出演:マイケル・ファスベンダー Michael Fassbender / ブレンダン・グリーソン Brendan Gleeson / ショーン・ハリス Sean Harris / 制作国:イギリス・アイルランド、アメリカ合衆国/ 言語:英語/ 邦題:『アウトサイダーズ』(日本公開2018年2月10日)/ 2016年制作