the secret scripture

冒頭、女性が暗い部屋で冊子のようなものに何かを記している。聖書だ。「Book of Job(「ヨブ記」)」の文字に重ねて「Book of Rose」と書き直している。その短いカット。「Rose」は彼女のロザーヌ Roseanne という名前。「Book of Ruth(「ルツ記」)」に同じように「T」を加えて「Book of Truth」、「真実」と重ね書きする。短い言葉を口走り、それが文字にされ聖書の余白に記されている。「私は自分の子どもを殺してない」と。

そこから、青い瞳の老婆が、多分病院、の中で立ち尽くしている場面。患者が周りにウロウロ、緩い系の病院?しかも古い。そこへ過去の同じ病院のカットが重なり、暗い回廊の奥からナースが警笛を鳴しながら、患者も奥からぞろぞろと出てくる。そこはいかにもな精神病院だとわかる。そこへ立ち尽くす冒頭の女性。美しい澄んだ青い瞳が同じで、現在の老婆と過去のその女性とが重なり、聖書に記された文字などの短いカットも重なっていく。

「1月4日、1942年。これらの言葉を記す」。しおりのように挟まった押し花。誰かの肖像デッサンや花をつけた梢の画。そして走り書きされた楽譜。
ここへピアノの曲と、裸の乳児、その泣き止まない声が響いて重なり、今にも冒頭の女性が生まれたばかりの乳児を地面に置き石打とうとするカットに、再び子どもを私は殺していないと女性の声。そしてタイトルが、先の精神病院の回廊を背景にして「The Secret Scripture」と浮かぶ。「Scripture」は記述された聖書の言葉。

冒頭から重なるピアノの曲は、この老婆が誰もいない部屋で一人激しく弾いているものだ。過去と現在が交差して、曲は「ムーンライト・ソナタ Beethoven’s Piano Sonata No.14 」の最後の第3楽章へ。

先の挿入された楽譜のカットは、変二長調だったのでその第2楽章。悲しく、でも激しい前半と後半の間の日差しのような平穏なこの楽章の調べは、いつかこの女性が奏でたであろう楽しい生活をしのばせるものだ。

聖書に書き綴った、日記がこの作品のタイトルになっているが、この病院は老朽化に伴い保養施設に建て替えられ、患者たちはまさに今移送されるところ。その前に、一人の精神鑑定医師が冒頭の老女をたづねてくる。
アイルランドにあるスライゴの町の大司教からの要請で、この患者に関しての鑑定を行うためだ。

大きな謎、この女性の過去という物語の「くびき」を冒頭から見るものに置き去って、ここまでほんの5分ほど。見事で唸るしかなかった。

大司教が精神病院へ鑑定士を派遣?当時の英国とアイルランドの関係は?英国の宗教の主流はプロテスタント?カソリック?
こんな疑問が最初から起こるが、それらについて多少なりとも調べるなり知っていたりすると、この時代の背景や、物語もよく理解できる。ルーニーさんが置かれていた状況やその理由もなるほどとわかる。彼女のブルーの綺麗な瞳と、綺麗な映像に流されてただ見してしまうのはあまりに惜しい作品だ。

台形のような山、ベン・ブルベンの脇を行くRAFの機影を遠くから見遣るロザーヌ。引き潮の干潟、砂上でマイケルと束の間の幸せを楽しみ、単車に二人でかける姿、それら場面はとてもいい。

DATA
【記録】原作:セバスチャン・バリー Sebastian Barry / 監督・脚本: ジム・シェリダン Jim Sheridan / 音楽:ブライアン・バーン Brian Byrne / 出演:ルーニー・マーラ Rooney Mara / ヴァネッサ・レッドグレイヴ Vanessa Redgrave / ジャック・レイナー Jack Reynor / エリック・バナ Eric Bana / テオ・ジェームズ Theo James / スーザン・リンチ Susan Lynch / 邦題『ローズの秘密の頁』(2018年2月3日公開)/ 制作国:アイルランド/ 2016年制作