oslo, 31. august

冒頭から、語り口は静かなのに、はっきりとして直裁的なメッセージで始まる。

人々の声が、その首都オスロの街の思い出を語る。そこに、日常のオスロの街の様子、人々の記録・記憶のフィルム映像が重なる。そして突然に爆破され、建造・破壊される古い建物の映像。そして、タイトル。「8月31日。オスロ市」があらわれる。

物語は、タイトルの日付の、前日から翌日早朝までの一日の出来事を描いている。

ガールフレンドと夜を過ごしたベッドで目覚め、戸外を眺める主人公の青年アンネシュ。しかし、もう30代前半。窓の外には高速道路が見えている。道路は住宅区画と戸外の森林地帯を分断するように建造され、多くの車が走るが、そこを渡り抜け、アンネシュは森林地帯へ進入、湖畔へと出る。石を上着のポケットに入れ、大きな石を抱えてそのまま、湖水の中へ入っていく。そして沈んでしまう。いきなり自殺じゃんか?しかし、苦しくなって水面から飛び出してきて、そのまま、深林を通り引き返してどこかへと戻っていく。そこは大きな屋敷のようだが、他人も大勢いる。顔をあわせるが全く挨拶や会話がないので違和感。そのまま、アンネシュは自分の部屋へ戻る。そして浴室へ行き、シャワールームも他人との共用。刺青バッチリの先客なんかも映って、えっ、て感じになる。ミーティングルームで輪になった人びとがいて、その各自のプレゼンは自身の感情や気持ちを話すこと。ああ。ここは、OD患者の治療施設だとわかる。

SUPPLEMENTS
「 OD 」は「 Over Dose 」の略。「(薬物等の)過剰摂取」の意味。薬物は「ドラッグ」と、この映画の各解説にはあるが、実際にこの作品中では「スピード、ヘロイン、コカイン、エクスタシー、アルコール類」と出てくる。

施設の支援で、就職活動を行い、この日はその面接があると言う。その面接の為に、自分が家族とともに生活していたオスロ市まで出かけ、そこで友人などに再会しながら、1日を過ごすという物語だ。

タクシーが市内に向かう時、市街を遠望するカットで建設ラッシュの首都オスロの様子が、さりげなく映し出されていた。

また、さりげないカットで、彼は裕福な家庭の生まれで、高等教育も受けていたことがわかる。その才能の片鱗も、最初、おいおい、いい加減なこと言うなよ、大丈夫かなって感じであったのが、面接時の彼の回答、応募したサイトに関する分析・解説などからも伺える。

前半、遊離した存在の彼だが、社会からの疎外感を受け、親友との溝、理解してもらえない苛立ちや怒り、絶望している様子が描かれるが、自分には幸せに見える他者が、その内面では悩んでいたり、必ずしも幸せではないことを理解するうちに、アンネシュの心にも変化が現れ、思い詰めていた気持ちが軽くなっていくのが分かる。そして人々が享楽的に楽しんでいる場に自身が溶け込む。しかしそんな場にごく普通に依存性のある薬物が入り込んでくる状況、その様子が怖いと思った。
そこは、孤立していた個人が、没個性的に不特定の集団の中に埋没していく様子でもあるが、自分が他人との差異も無く、自我も無くなることが心地いいのだ。

精神的に不安定で、良い時も急にそうで無くなる時も、しかしやっと治療施設で依存症を脱し、禁断症状をも克服してあとわずかで退院できると言うこの青年が、これではまた逆戻りではないか?

非常に印象に残った場面がある。後半で、友人が同伴していた女子学生の一人、医療栄養学を学んでいると言う女性と会い、4人が連れ立ち、女の子の自転車に”2ケツ”で深夜の誰もいなくなった街を走り抜けて、オスロの「クラシックな場」、その穴場へアンネシュ達が案内するところだ。そこで4人して他愛もなくふざけて、夜の明け方、屋外の市民プールの柵を越え、日付を尋ねた時、31日はプールの水の栓を抜く日だと言いながら中へ入って遊んでいる。友人はもう一人の女友達と馬鹿なおふざけで ヌードになって泳いでいる。先の女の子が戸惑いながらも続いて裸になってアンネシュを水の中へ誘う時、一瞬、自殺を試みた時の躊躇や恐怖が蘇るが、その一瞬、表情が穏やかになって、自分の家に戻ろうとアンネシュは決意する。しかし・・・

POINTS
【視点】「北欧」の国、日本では医療などの社会的な保証制度、教育制度の優等生、国民の「幸福度」が高いというイメージがあるが、EU圏内でもノルウェーのヘロイン依存症患者や死亡者数は、断トツの上位を占める。この作品はそんな現実が背景になっているが、実際にそこで何が起こっているのだろうか。

MEMO
【記録】原作者:ピエール・ウジェーヌ・ドリュ=ラ=ロシェル Pierre Eugène Drieu La Rochelle / 作品名:『ゆらめく炎 Le feu follet 』(英語タイトル:”The Fire Within”、または “Will O’ the Wisp” )。映画『鬼火 Le Feu follet 』の原作(1963年のルイ・マル監督作品)/ 1931年出版/ 内容:シュルレアリストの詩人・ジャック・リゴー Jacques Rigaut ( 1898 – 1929 )の生涯を原案。30歳になった男が、第1次世界大戦の退役後に社会に適応できずアルコールとヘロインの依存症になり療養生活をしながら、ある日パリの友人を訪問後に再び病院へ戻って自殺するまでを描いた作品。
MEMO
【記録】監督・脚本:ヨアキム・トリアー Joachim Trier 作品:『リプライズ Reprise 』(2006年),『母の残像 Louder than Bombs 』(2015年), 『 Thelma 』(2017年)/ 撮影:ヤコブ・イーエ Jakob Ihre / 音楽:トルグニー・アンダン Torgny Amdam, ウーラ・フラットゥン Ola Fløttum / 出演:アンネシュ・ダニエルセン・リー Anders Danielsen Lie / マリク・クレピン Malin Crépin  / ヨハンナ・シェレヴィック・レアドン Johanne Kjellevik Ledang / エレナータ・ラインスヴェ Renate Reinsve / 制作国:ノルウェー/ 言語:ノルウェー語/ 2011年制作